The Garden of Words
『27歳のわたしは、15歳の頃の私より少しも賢くない。』
梅雨の季節に日本庭園で出会った、靴職人を目指す少年と歩き方を忘れた女性。彼女が少年に残したのは一篇の万葉集。
『言の葉の庭』 / 新海誠
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新海誠の映画は『ほしのこえ』、『雲のむこう、約束の場所』、『秒速5センチメートル』と何作か見たことがあった。『雲のむこう~』も『秒速~』も絵が綺麗だったが今回の『言の葉の庭』もとても綺麗に作られている。
今までの作品では、自分とその周辺人物の行動がそのまま世界の運命に直結するいわゆるセカイ系な作品だったが、今回のは世界の運命なんて微塵も関係ないものになっている。今までの作品に比べるとずいぶん身近で現実的だ。
『秒速~』の内容がそうであるように、新海誠の映画は恋愛映画なのに報われないし、失恋した後の描写も「男は新規保存、女は上書き保存」みたいなことを地で行っているので今回もそういうのを期待しながら見てみた。
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雪野先生は魔性
最初に雨の新宿御縁で出会い別れるときに、雪野は主人公のセーターのロゴから自分の学校の生徒だというのを認識して、「(以前に)会ってるかも」と口走ります。そこまでは良いでしょう。なんでそのあとに出てくるのが「鳴る神の、少し響みて、さし曇り、雨も降らぬか、君を留めむ」なのか、こういうその場では意味は分からないけど帰って調べたら、心をかき混ぜられるような時限爆弾式な駆け引きというのは、これはもう誘っていると言っても過言ではない。いや過言だが、こと男子高校生に対して万葉集の上記の一遍を使い年上の教養と奥ゆかしさを垣間見せるなんていうのは過度に行き過ぎた行為だと言いたい。更に言うなら羨ましい。
『鳴る神の、少し響みて、さし曇り、雨も降らぬか、君を留めむ』
「あなたとまだいっしょにいたいから、雨でも降らないかしら」
この後も雪野先生は主人公の秋月を自分の学校の生徒だと分かりながら、七夕の織姫と彦星の如く雨の日に限り逢瀬を重ねる。朝起きると「雨だ」と喜ぶ雪野先生、これはもう自身の魔性気質に無自覚的で、出来ることなら「秋月をどうするつもりだ」と頬を叩きたい。そしてその後慰めたい。
しかし魔性とだらしなさは親和性があるのか、どうにも雪野先生だらしがない。既婚者の同僚が隠れて電話をするあたり不倫でもしてたのではないかと勘ぐれなくもない。
「俺、雪野さんが好きなんだと思う」と秋月くんに言われ頬を赤らめても「雪野さんじゃなくて先生でしょ」とお決まりの返答をする。堪らなくなり部屋を飛び出した秋月くんを雪野先生は追いかけるが、そこで出た言葉は、“好き”でも“愛してる”でもなく「あなたに救われてた」、どうにも秋月くんが報われないように思えるのは『秒速~』の印象が強いからか。
万葉集には「孤悲」という表現があるが、なるほど今作は単純な恋物語ではなく雪野先生と秋月くんそれぞれの孤独で悲しい、孤悲物語ということだろうか。
結末はどうなったのかは描かれていない。その後も関係が続くのか続かないのか、『秒速~』で打ちのめされたのに比べると見ている人に結末を委ねるという投げやりさは感じるにせよ、こういう終わりも良いのかもと思えなくもない。
雨の日が待ち遠しくなる、そんな一作。