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思ったことを忘れないように、考えたことを思い出せるように

映像の世紀

 

しばらくのあいだ人々は、カントリー・クラブやもぐり酒場でグラスを下に置き、最良の夢に思いを馳せた。

「そうか、空を飛べば抜け出せたのか――」

われわれの定まるところを知らない血は、果てしない大空になら、フロンティアを見つけられたかもしれなかったのだ。

ジャズエイジのこだま』 / スコット・フィッツジェラルド

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美瑛の青い池に行ってきた.Macの壁紙のようには撮れなかったけれども,水面が青いことがわかる.

まだ中学生だったころ,社会科の時間に見せられたNHKのドキュメンタリー『映像の世紀』が印象的で機会があればまた見たいと思っていた.しかし考えてみると機会というのは作らなければ訪れないものなので,少しやる気を出して調べてみたところどうやら市の図書館でDVDを借りることができるらしい.ということで早速借りてきて最近は『映像の世紀』ばかり見ている.

授業で見ていたのは第五章の『世界は地獄を見た』だったと思ったけど,どうせならと第一章から見てみたので気になったところをメモしておく.

 

NHK DVD-BOX 「映像の世紀」全11集

NHK DVD-BOX 「映像の世紀」全11集

 

 
映像は1900年のパリ万博から始まる,面白いのは路地裏で行われた決闘のシーン,お互いにサーベルを持ち,介添人の立会のもと闘う場面が残されている.他にもエッフェル塔から飛び降りる興行師や、夏目漱石も見たというヴィクトリア女王の葬列,ニコライ二世の隣に座るラスプーチンなど,1900年代の映像となるとそれは違う世界の物語を見ているようで、今はない昔のものに対する憧れのようなものを感じる。

歴史的な映像では、暗殺される数時間前のフェルディナンド皇太子が撮影されている.暗殺事件の一ヶ月後にオーストリアがセルビアに対し最後通牒を出し,48時間以内に回答せよと迫る.セルビアは一部を除き同意したが結局は開戦.

48時間なんていう時間を設定したオーストリアもめちゃくちゃなら48時間以内に結論を出したセルビアもめちゃくちゃスピーディー.

これは第二章で説明されていることだけど,どうやら戦争の概念が現代とはずいぶんと異なっていたようだ.作家のシュテファン・ツヴァイクは,当時の兵士たちの気持ちをこう解説している.

あの頃は、人々はまだ疑うことを知らなかった。ロマンにあふれた遠足・・・。荒々しい、男らしい冒険・・・。戦争は3週間。出征すれば、息もつかぬうちにすぐ終わる。大した犠牲を出すこともない。私達は、こんな風に1914年の戦争を単純に思い描いていた。クリスマスまでには家に帰ってくる。新しい兵士たちは、笑いながら母親に叫んだ。「クリスマスに、また!」

 

多分,オーストリアもセルビアとの戦争が世界規模のものになるとも思っていなかったし,短期間で終わると考えてたんじゃないかと思える.

気がつけば世界規模の戦争になってしまったのが一つ目の不幸で,もう一つの不幸は戦闘機,機関銃,戦車,毒ガスetcと大量殺戮が可能な兵器がどんどん生み出されるほど技術が進歩してしまったことだろう.最初は馬と大砲で始めたはずの戦争がわずか4年でこの変わり様,戦争は技術を発展させるというのがよく分かる.そんな第一次世界大戦チャーチルは回想してこう述べている.

戦争からきらめきと魔術的な美がついに奪い取られてしまった。
アレキサンダーや、シーザーや、ナポレオンが兵士達と共に危険を分かち合い、馬で戦場を駆け巡り、帝国の運命を決する。
そんなことはもう、なくなった。

これからの英雄は、安全で静かで、物憂い事務室にいて、書記官達に取り囲まれて座る。
一方何千という兵士達が、電話一本で機械の力によって殺され、息の根を止められる。
これから先に起こる戦争は、女性や、子供や、一般市民全体を殺すことになるだろう。

 

結果としてドイツ帝国ロシア帝国もオーストリア=ハンガリー帝国も滅びることになった世界大戦の発端は,セルビア人青年の放った二発の弾丸で,たった数グラムの鉛が世界の歴史を変えてしまったと考えるとなんだか不思議な話である.