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思ったことを忘れないように、考えたことを思い出せるように

暗号解読 - ヴィジュネル方陣やらエニグマやら -

 

魔法の秘薬にりんごを浸けよう。永遠の眠りがしみ込むように。

『暗号解読』 / サイモン・シン
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なんだか落ち着いてきたので随分前に読んだ本を忘れないようにまとめておこうかと思う。昨年読んだ本のなかでは一番面白く、最近読むものがなかったので読み返している一冊。

 

暗号解読〈上〉 (新潮文庫)

暗号解読〈上〉 (新潮文庫)

 

 

第三者に読まれたくない文書をどのように隠して、伝えてきたのかという歴史と方法が記述されている。

第1章 スコットランド女王メアリーの暗号
第2章 解読不能の暗号
第3章 暗号機の誕生
第4章 エニグマの解読
第5章 言葉の壁
第6章 アリスとボブは鍵を公開する
第7章 プリティー・グッド・プライバシー
第8章 未来への量子ジャンプ

文字を入れ換える。表を使う。古代ギリシャの昔から、人は秘密を守るため暗号を考案してはそれを破ってきた。密書を解読され処刑された女王。莫大な宝をいまも守る謎の暗号文。鉄仮面の正体を記した文書の解読秘話……。カエサル暗号から未来の量子暗号に到る暗号の進化史を、『フェルマーの最終定理』の著者が 豊富なエピソードとともに描き出す。知的興奮に満ちた、天才たちのドラマ(amazonより)

 

 秘密の書記法の歴史は古い、また手法も豊富だ。紀元前ではカエサルは使用する文字の数字後の文字を使用して平文を暗号化するカエサルシフト暗号と呼ばれる暗号法を用いた。

文字をシフトさせずにキーフレーズを決め、そのキーフレーズにアルファベットを順に割当てることで、文字自体を置き換えて平文を暗号化する方法も考案された。
また、キーワードをヴィジュネル方陣と呼ばれる表に当てはめて平文を暗号化する方法も考えられた。

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ヴィジュネル方陣
(平文にキーワードを当てはめキーワードと平文の交差する文字を暗号文字として使用する)

 

こうした暗号によって、スコットランド女王の命運は委ねられたし、ルイ14世は幽閉している鉄仮面の正体を隠せた、また、トマス・ビールは何人もの宝探し人を破滅に追いやった。

 

  • 次々と生み出される暗号システム

こうも次々に暗号作成者が新しい手法が生み出してきたのは、それだけ暗号を解読してきた者がいたということを表している。

アラビアの暗号解読者たちは、一般的な文章に使われる文字の出現頻度と暗号文に使用されている文字の出現頻度を照らし合わせて、換字式暗号で置き換えられた文字を探っていった。

チャールズ・バベッジは、暗号文中に繰り返し出現する文字列の間隔パターンからキーフレーズの文字数を推測し、見当をつけた文字数からヴィジュネル暗号を平文化していった。

作成した暗号解読者によって破られる度に、暗号作成者は更に強力な暗号システムを考案していった、こうして手法が進化していった結果生まれた暗号システムの一つが『エニグマ』である。

 

ドイツの発明家アルトゥール・シェルビウスは、『入力用のキーボード』、『平文を暗号化するスクランブラー』、『暗号化した文字を表示するランプボード』からなる暗号機を作成した。これが改良され後に、エニグマ(謎という意味)と呼ばれる連合軍を苦しめる暗号装置となっていく。

この暗号装置に立ち向かったのが数学者アラン・チューリングである。暗号装置で使われている鍵を総当り式に調べる装置を作成してみたり、捕獲したエニグマを何台も連結して稼働させてみたり、また毎朝6時に受信される暗号文に気象情報が含まれているのを発見し、そこで使用されている文字から平文を推測する方法も考えた。

暗号装置がいかに機械的であっても使用する人間の習性から暗号文を解読していくというあたりはとても人間的な作業で、数学者であるチューリングが数式や論理と戦っていたわけではなく、暗号機の向こうにいるドイツ軍と戦っていたということが分かる。

アラン・チューリングについては、以下の映画でも描かれている。

 

  • ジレンマ

暗号解読者のジレンマとして、暗号を解読したことが知られてしまうとその暗号システムが使用されなくなる、ということがある。これは『イミテーション・ゲーム』のなかでも暗号解読班が抱えているジレンマとして、エニグマを解読したことをドイツに知られないよう、攻撃目標とされても避難することを指示できない様子として描かれている。

ドイツ軍の暗号システムを打ち破り、戦争終結を早めることで多数の人命を救ったアラン・チューリングだったが、数々の賞賛を与えることよりも、”戦時中に暗号を解読できていたということを他国に知られたくない”という英国政府の判断により、暗号解読に対しての賞賛が与えられることはないまま41歳で自ら命を絶つこととなる。

 

暗号を解読できても、それを功績として発表できるようになるまでは長い時間が必要になる。もしかすると、現在使用されている一見安全に思える暗号についても、すでに解読する手法が”誰か”によって発見されているかも知れない。発見されていたとしてもその誰かの名前が歴史に出てくるのはまだまだ先になるだろうけど。