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ice_blog

思ったことを忘れないように、考えたことを思い出せるように

USJを劇的に変えた、たった1つの考え方

 

ユニバーサル・スタジオ・ジャパンには一度、2012年に訪れたことがある。
その時は、2004年に経営破綻した後のV字回復の坂を駆け上っていた瞬間ではあったのだが、そんなことは露知らず、大阪に来たのだからUSJにも行ってみようと思い足を運んだのだった。しかし本書を読むと、もしかすると当時、既にブランドエクイティを確立していたから自然とUSJに足が向いたのかもしれない、なんてことを思う。

USJはなぜ復活し、大成功をおさめることができたのか? なぜ次から次へと新しいアイデアが出てきて、なぜやることなすこと上手くいくようになったのか? その秘密は、たった1つのことに集約されます。USJは、「マーケティング」を重視する企業になって、劇的に変わったのです。(Amazonより)

 

  • 不祥事が起こったから集客が減った...のではなく

2010年に入社した著者は集客低迷の原因を探るなか、社員からのヒアリングで、開業翌年に起こった不祥事(食品賞味期限の偽装、水飲み場への工業用水の接続、火薬の使用量と保存方法に関する問題)がブランドイメージを低下させ、集客力の落ち込みに繋がっていると考えられていることを知る。しかし、実際に数字を調べてみると不祥事が起こったから集客数が減ったのではなく、不祥事前から集客が落ち込んでいることが分かり、逆に集客の落ち込みが不祥事に繋がったのではないかと指摘した。

また、映画とは関係ないコンテンツを導入したことで、「映画のテーマパーク」というブランド軸がズレて集客が落ち込んだと考えられていることに対しては、エンターテイメント全体に占める映画の割合は1割しかないこと、更にTDLとの差別化について関東と関西では交通費の壁があるのに同じ商圏であるかのように判断するのは合理的ではないことをあげ、差別化のために映画だけにこだわるのをやめる決断をする。

USJにおいて、「2002年の不祥事」も「TDLとの差別化のために映画のテーマパークにこだわる事」もビジネスドライバーではないと断言した。

 

1.ターゲット客層の幅
エンターテイメント全体に占める映画の割合は1割しかないことから、USJを「映画の専門店」から「エンターテイメントのセレクトショップ」へと変貌させることで、低年齢の子供連れの集客を増やし生涯来場者数も増やすことを目指した。
⇒「ユニバーサル・ワンダーランド」、「ハリー・ポッター

2.TVCMの質
広告の目的はその企業のブランド価値を向上させて売上を伸ばすこと。オンエアの前後で実際のビジネスの結果と相関関係を分析し、調査分析モデルを作成することで効果を自ら判断できるようにした。

3.チケット価格の値上げ
日本のテーマパークは世界標準の半分の値段で安売りされていることに注目し、ブランド価値を高めた後、チケット価格を上げても売上が下がりにくい状態を作り5年間で2割の大幅な値上げを敢行した。

 

  • 資源は常に足りない

事業を行うなかでなぜ戦略が必要になるのか、ということについて著者はどのような大会社でも達成したい目標に対して資源は常に不足していると指摘し、その戦略の考え方として「選択と集中」つまり「何をやるのかを選び、何をやらないか」を選ぶ必要があると指摘する。

 

  • そもそも良い戦略って...?

著者は良い戦略が持つ特徴として

1.Selective(選択的かどうか)...やることとやらないことが明確か
2.Sufficient(十分かどうか)...投入される資源が十分か
3.Sustainable(継続可能かどうか)...短期ではなく中長期持続可能か
4.Synchronaized(自社の特徴との整合性)...自社の強みを活用できているか

の4点をあげ、良い戦略を立てるために大切なことは、相手と自分の特徴の差を自身に有利になるように活用できるかどうかだと説く。

その他にも、市場の構造に逆らって地雷を踏むことを避けるための5C分析やギリギリ届く高さのシンプルで魅力的な目標設定の仕方、戦略ターゲットとコアターゲットの見つけ方、直近の購買実績から市場の大きさを判断する確率統計理論(ガンマ・ポアソン・リーセンシーモデル)などの戦況分析が紹介されている。

※5C分析
Company...自社の理解
Consumer...消費者理解
Customer...流通など中間客の理解
Competitor...競合他社の理解
Community...地域社会の理解

 

消費者の隠された真実を探し、消費行動に促す例をCMの作成を通して紹介している。

クリスマスのCMを「子供と本気で楽しめるクリスマスはあと何回もない」という親の切ない深層心理に触れるように企画して作成する。その際の表現方法がなかなか秀逸だったので引用する。

もっとわかりやすく表現すると「あなたのまだあどけなくてかわいい娘はすぐに大きくなってクリスマスなんてあなたと一緒に過ごしたがらなくなります。すぐにクリスマスイブは帰ってこなくなって、ホテルで彼氏と一緒に過ごすようになりますよ。だってお母さん、あなたも身に覚えがあるでしょう?」というもの。

このインサイトを具現化するために、CMでは大人っぽい表情ができる少女をキャスティングして父親と二人でクリスマスのパークでデートをしている映像を放送。クリスマスシーズンの集客効果を前年に対して倍増させることに成功した。

 

  • 消費者を知るということ

本書でのマーケティングの考え方や手法の解説を読んでいると、調査やアンケートであがってくる数字の理解ということ以上に「消費者」を知りたいという欲求のようなものを随所に感じるし、数字に囲まれた世界にいながらも人間味を追い求める姿勢が微妙な矛盾にも思えて面白い。

「消費者の気持ちになって考える」、「消費者視点で物事を考える」とは今やどこの世界でも言われることではあるが、言うは易く行うは難しい。ではその難しい部分をどのように考えるのか。

そんなとき、この本が役に立ってくるんだろうと思った。

 

以下面白かった部分や気になった箇所を引用

しかしながら、戦略的リーダーシップの強い人は、自身の業務に影響を及ぼす目的の設定に関与しようとするものですし、決定権がないにしても、降ってきた目的をより明確に再設定する提案や調整を行うものです。それが上位組織にとってもより良い目的設定であれば、提案は受け入れられるものです。そして、そういう戦略的リーダーシップに優れた人は、いずれ上位組織に上がっていくものなのです。(P149)

 

本人は「自分がそんなにできない人間だとは知らなかった」とよく言います。学校で勉強くらいしかしたことないのに、プロデビューしてすぐに何かできるようになる訳がないのですが、このタイプの人は「できない自分」が過度のストレスになるようです。それを私は「優等生症候群」と言っていました。社会人デビューすると誰もが、できない自分を受け入れて貪欲に学ぶことが求められるはずなのに......。(P224)

勉強くらいしかしたことないのに、というのはなかなかパンチが効いていて好きな表現。

会社はあなたの何に対して給料を払っていると思いますか?それはあなたの会社への貢献に対して払っているのですが、もう一段深く考えてみましょう。「あなたの貢献」は何によってもたらされるのか。それは必ず、あなたのもっている「強み」を活用してもたらされるのです。ということは会社はあなたの強みに対して給料を払っているということ。あなたが誰も知らないところで続けている「弱点克服」の努力に対して給料を払っているわけではないのです。(P240)

 

また、本書の引用ではないが朝日新聞デジタルの記事から

www.asahi.com

 「正直言って、リスクなんてないじゃないですか。USJの『ハリー・ポッター』のアトラクションには、年間売り上げの半分以上にあたる450億円かける決断をしました。これがもし失敗したって、誰も僕を殺しに来ないでしょう。そりゃあ、僕とグレンはクビになって、バッテンがつくでしょう。そうなったら、たこ焼き屋を経営して大繁盛させて、半径5キロ以内のライバルを全部つぶしますよ(笑)

 とても前向きでアグレッシブ、半径5キロ以内のたこ焼き屋さんが潰されなくて良かった...