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シルバー民主主義

日本の高齢者は、正月に孫にお年玉をあげることを楽しみにしている。逆に、孫のお年玉を取り上げるような高齢者は、およそ考えられない存在である。しかし、家族の中では起こり得ないようなことが、現に日本の社会保障制度では生じている。

『シルバー民主主義』 / 八代尚宏
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年金でも健康保険でも毎月こんなに社会保険料搾取していくのなら、自分が高齢者になったときはその時の若者にガンガン負担してもらおうと無責任なことを考えていたけど、無勉強に無責任になってはいけないと思い社会保障に関係する本を読んでみた。

 

 急激な少子高齢化により、有権者に占める高齢者の比率が増加の一途にある日本。高齢者の投票率は高く、投票者の半数が60歳以上になりつつある。この「シルバー民主主義」の結果、年金支給額は抑制できず財政赤字は膨らむばかりだ。一方、保育など次世代向けの支出は伸びず、年功賃金など働き方の改革も進まない。高齢者にもリスクが大きい「高齢者優遇」の仕組みを打開するにはどうすべきか。経済学の力で解決策を示す。(Amazonより)

 

 

  • シルバー民主主義とは

そもそもシルバー民主主義とは何なのか

少子高齢化の進行で有権者に占める高齢者(シルバー)の割合が増し、高齢者層の政治への影響力が増大する現象。選挙に当選したい政治家が、多数派の高齢者層に配慮した政策を優先的に打ち出すことで、少数派である若年・中年層の意見が政治に反映されにくくなり、世代間の不公平につながるとされている。

kotobank.jp

 ということ。

若者の投票率が低いとニュースになるけど、そもそも少子高齢化社会では各世代で持っている票の総数が異なるので、多数派の世代に有利な政策が優先されてしまう。

では、どうすれば良いのかということで、著者は3つの選択肢を記している。

1.世代別選挙区
議会の議席を世代別人口に応じて割り振る選挙方式。

2.ドメイン投票方式
投票権を持たない未成年者の票を親が代わりに投じる選挙方式。

3.余命比例投票
平均余命が長い若年者ほど、比例して一票の価値を高める選挙方式。

「余命比例投票」って死ぬまでの残り時間を体感的に把握できてなかなかロックだし、「ドメイン投票」は少子化問題の政策優先度を高められそうだけど、結局高齢者が不利になるような投票方式への変更を高齢者自身が賛成するのかという点で現実感は薄い、これについて著者は「誰がネコの首に鈴をつけるのか」という素敵な比喩で表現している。

 

過去に小泉政権時代に「小さな政府」を目指し、高齢化に対応した長期的な年金制度の安定化を図るためにマクロ経済スライドを導入し、自然増加する社会保障関係費の一部を抑制することには成功したが、「社会保障を切り捨てて所得格差を拡大させた」と批判されてしまう。

このマクロ経済スライドについては、最近の年金改革法案でも総理大臣と野党が「社会保障費足りなくなるから発動させる!(意訳)」「発動させたら年金減っちゃうからだめ!(意訳)」と言い合いをしている。

ちなみに小泉政権と同時期にドイツでは年金支給開始年齢の引き上げや失業保険給付の厳格化など持続的な社会保障支出の抑制改革を実施している。

  • 主要国の年金支給開始年齢

日本 65歳
豪州 65歳
英国 68歳
独国 67歳
米国 67歳
デンマーク 69歳

豪州は今後70歳までに引き上げが決まっている。
ここでは平均寿命と年金支給開始年齢の比較を行っており、他の先進国の受給期間が平均10年程度なのと比べ日本は15年と長くなっている。

こうして見ると今後70歳から支給開始となったとしても自然な流れのようにも思えるし、そもそもオーストラリアよりも少子高齢化が進んでいるはずの日本の方が支給開始年齢が早いって、そのツケは誰が負担するのかとても気になるところではある。

lifejob.me

 

シルバー民主主義の特徴の一つとして、低所得高齢者の救済を名目に勤労世代からの所得移転を拡大させようとすることにあるとしている。これに対して、貧しい高齢者の救済を同世代の豊かな高齢者の負担で賄うことにして、高齢者に偏った社会保障給付の見直しの必要性を記している。でも結局、誰がネコの首に鈴をつけるのでしょう。

 

 『年金支給年齢が引き上げられる』とか『支給額がカットされる』とか、確かに反対なんだけれど、制度が限界なのに反対するのも無責任な気もするので、自分の世代になったときに破綻して年金制度ありませんとならないように、どうにか持続可能なシステムを構築してもらいたいし、そのために痛みを伴う改革が必要なら若年世代に負担を先送りするのではなく、出来るだけ多くの世代で痛みを分かち合ってもらいたい。

それでもだめなら、その時には現役の若者にガンガン負担してもらおう(そこは無責任)。