西表彼是
僕はその暗闇の中で、海に降る雨のことを思った。広大な海に、誰に知られることもなく密やかに降る雨のことを思った。雨は音もなく海面を叩き、それは魚たちにさえ知られることはなかった。
『国境の南、太陽の西』 / 村上春樹
_______________________________________________
久しぶりに飛行機に乗り、南へ南へ行ってきた。
東京で乗り換え、那覇で乗り換え、13年振りの石垣空港は新しくなり、南ぬ島空港なんて呼ばれていた。南の島感満点である。
誰も乗っていない離島ターミナル行きのバスに揺られ、チケットカウンターでは「明日、明後日は台風で船出ませんから帰ってこれませんよ、本当に行くんですか」と白い目で見られながら、どうにか到着、最果ての西表島。
翌日は朝から海岸線を歩き、マングローブ林まで行き身体を伸ばす。台風前の湿った風を感じ、朝日を浴びながら目を瞑ると波の音と鳥の鳴き声だけが聞こえる。スコールのように短時間で強い雨が降り、それが終わると足下まで泳いでいけそうな虹が出た。
台風が来る前に遊べるだけ遊んでおこうと、往復で5時間、ガイドの話を聞きながら滝を目指してジャングルを歩いた。
西表島にはサンガラ、ピナイサーラ、カンピレー、マリユドゥなど様々な滝がある、今回行ったのはユツンの三段滝、なぜユツンか。一番険しそうだったから。
散る間際のサガリバナが咲いていて、尻尾の綺麗なイシガキトカゲが走り回り、頭上にはカンムリワシが止まっていた。ああ、東洋のガラパゴス。
滝の上で、海からの風を受けながら海岸線に目をやると座礁船が見える、水辺線を見つめると、世界の端っこが見えて来そうな気がした。